膵臓癌のカーボンナノチューブを使った検査法

すい臓がんは「がんの王様」といわれるほど、進行の速いがんです。さらに症状が出にくく、早期発見が難しい点も死亡率の高さにつながっています。

そんなすい臓がんをなんとか早期発見できないかと、世界中の研究者たちが必死に努力を続けていますが、その中でも2012年に大きな注目を集めたのが、当時15歳の男子高校生が考案した「カーボンナノチューブ」を使った検査法です。

これが実用化されれば、低いコストでスピーディに、かつ高確率ですい臓がんを早期発見できることが期待されています。一体どのような検査法なのか、詳しく解説していきましょう。

インターネットですい臓がんの情報を集めた、15歳の少年

すい臓がんの死亡率が、他のがんと比べてもきわだって低いのは、がんの進行が早い上に早期発見が難しいためです。

大部分の患者さんが、病気がかなり進行してから受診するため、既に手の施しようがないというケースが多くみられます。

そんな厄介なすい臓がんを早期発見するための新たな検査法を思いついたのは、アメリカの少年、ジャック・アンドレイカ君です。ジャック君は1997年生まれ。当時15歳の高校生だったときに、この検査法を考案しました。

きっかけとなったのは、家族ぐるみで仲良くしていたおじさんが、すい臓がんで亡くなったことです。多くの人は、そこで嘆き悲しむだけで終わると思いますが、ジャック君はそうではありませんでした。

大好きなおじさんの命を奪った、憎きすい臓がんという病気について、精力的に調べ始めたのです。

その調べ方というのが、現代の高校生らしく、情報源はインターネットでした。Google検索やウィキペディア、また研究論文を無料で閲覧できるサイトなどをフル活用しながら、ジャック君はさまざまな情報を集めていきます。

早期のすい臓がんでも必ず増えるタンパク質はどれ?

そうして調べていくうちに、彼は「すい臓がんにかかると血中に増えるタンパク質」が、およそ8,000種類もあることを知りました。その中から、実際に検査に使えるタンパク質を探していくことになります。

このようなタンパク質は「腫瘍マーカー」と呼ばれ、数十年前から多くのがんの検査に用いられていますが、かんがかなり進行してからようやく数値が上がる患者さんも少なくないため、がんを確実に早期発見するための検査としては弱い点がネックでした。

また腫瘍マーカーは、がん以外の病気によっても陽性を示すことがあるため、がんとの区別をつける必要もあります。

そこでジャック君は、「ごく早期の患者さんの血液からも必ず検出できること」「がんの場合だけに陽性反応を示すこと」などを条件に、使えるタンパク質を探し出します。

そうして絞り込んでいった結果、見つけたのが「メンテリン」というタンパク質でした。メンテリン自体は、特に珍しくもないタンパク質ですが、すい臓がんになると体内で過剰に産生されて血中に移行します。

ジャック君は、このタンパク質を用いて、すい臓がんを早期発見するための検査法を編み出すことにしました。

授業中に思いついた、「カーボンナノチューブ」を使った検査法

次なる課題は、メンテリンを確実に検出するための検査方法です。

従来の血液検査では、時間や費用がかかる上に、精度がそれほど高くないため、ジャック君はより簡単で確実にメンテリンを検出するための方法を考える必要がありました。

行き詰まっていた彼にいいアイデアがひらめいたのは、なんと高校の生物の授業中でした。

授業に興味を持てなかったジャック君は、先生に隠れてこっそりと科学雑誌を読んでいたのですが、そこに「カーボンナノチューブ」についての記事が載っていたのです。

さらにその時の生物の授業では、「抗体」についての学習が行なわれていました。

カーボンナノチューブの記事を読みながら、耳から入ってくる抗体の話…この2つがうまい具合に結びついて生まれたのが、カーボンナノチューブを使ったすい臓がんの検査法だったのです。

カーボンナノチューブとは、「カーボン(炭素)」・「ナノ(ナノメートル)」・「チューブ(筒)」の3つの言葉が合わさっている通り、炭素の原子が結びついて円筒状になった、ごく小さな物質を指します。

非常に細く、なんと人の髪の毛の5万分の1の直径しかありません。

カーボンナノチューブの特徴は、こんなに細くても十分な強度があること、そして優れた導電性を持っていることです。

通常、これほど小さくした金属は強度が弱くなり、導電性があっても必要な電流が流せないことが多いのですが、カーボンナノチューブは炭素でできているため、ダイヤモンドと同じぐらいの強さを持ちます。

流せる電流量は、なんと銅の1,000倍です。

さらに、電子が抵抗を受けることなく高速で移動できる点も、カーボンナノチューブの魅力となっています。

このようなカーボンナノチューブは、銅に代わるコンピューターの配電材料としての活用が進められているところです。

ジャック君は、雑誌に載っていたこのカーボンナノチューブに注目しました。カーボンナノチューブの導電性は、何かの物質が結合すると変化します。

この変化を検出できれば、すい臓がんの早期発見に役立つかもしれないと考えたのです。

すい臓がんの早期発見に向けて、実用化が進められている!

ジャック君は、カーボンナノチューブの中に、メンテリンにだけ反応する抗体を織り込み、それを一片の紙に塗布することで試験紙を作ろうと考えました。

その試験紙に、尿か血液を一滴落とすだけで、すい臓がんだった場合、カーボンナノチューブの電気抵抗が変化するというしくみです。

これ以上の研究は自分だけでは難しいため、ジャック君は多くの大学研究室やすい臓がんの研究者に、実験に協力してくれるよう手紙を書きました。

およそ200通送ったうち、たった一通だけ良い返事をくれたのが、ジョンズ・ホプキンス大学の教授でした。

そうして彼の協力を得て7ヶ月間の研究を続けた後、ついに成果を得ることができたのです。

ジャック君の考案した検査法は、1回あたりわずか3ドルしかかからず、非常に低コストです。

また所要時間も約5分と、従来の腫瘍マーカーと比較してスピーディにできますし、検査の精度は90パーセント以上という高さでした。

さらにこの検査法は、抗体の種類を変えることで、肺がんや卵巣がんなど他のがんにも適用できる可能性があることが分かっています。

世界中の優秀な研究者が、莫大な費用や膨大な時間をかけて研究を進めているすい臓がんの検査法。それを弱冠15歳の少年が、インターネットで得た知識をもとに開発してしまいました。

実際に現場で実用化されるまでには、もう少し時間がかかりそうですが、もしも実用化されれば、症状のないうちからすい臓がんを簡単に、低コストで、しかも高い確率で早期発見できる日がやってくるかもしれません。

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